龍泉寺の当麻曼荼羅図/県指定文化財
龍泉寺当麻曼荼羅図
旧軸木墨書
補修記録
名称
絹本著色当麻曼荼羅図(けんぽんちょくしょくたいままんだらず)
附 旧軸木1本及び補修記録1幅
数量
1幅
種類
絵画
材質及び技法
絹本著色、掛幅装
寸法
縦122.3センチメートル、横118.4センチメートル
時代
鎌倉時代/元応元(1319)年
所有者及び所在地
龍泉寺(加古川町平野123)所蔵
指定年月日
平成4年3月23日県指定(昭和63年1月14日市指定)
解説
当麻曼荼羅図は、浄土三部経のひとつ観無量寿経の変相図で、天平宝字7年(763)中将姫が蓮糸で織ったと伝えられる奈良県当麻寺の図を根本とすることから、この名称で呼ばれることが多い。鎌倉時代初期以降、浄土教思想が盛んになるにつれて、証空 (1177-1247)らによって長野県善光寺をはじめ国内各地に流布された記録も残り、江戸時代にいたるまでに作られた模本の数は枚挙にいとまがない。
内陣には、阿弥陀三尊を置く37尊段を中心に舞楽会や相迎会を描く宝池や、豪華な宝楼などを描き、華やかな極楽浄土の世界を図示している。仏菩薩は悉皆金色身で、着衣には網目、雷文、斜格子など多様で精巧な切金が施されている。向って左辺には下から阿闍世太子の父王の幽閉と母后韋提希夫人の阿弥陀仏への帰依を描き、右辺には十六観想のうち上から日、水、地、樹、池、楼、華座、形像、真身、観音、勢至、普観、雑観の十三観を配し、下辺には残りの三観を九品来迎の形で右から並べ、さらに下縁中央に色紙形をつくり由来を記している。また、画面の周囲は、描き表装としている。
さて、当麻曼荼羅の転写本の歴史をみると、上述の証空による転写本は見つかっておらず、建保5年(1214)、当麻寺僧恵阿弥陀仏が、法印良賀ならびに法眼源慶、源尊らをして根本曼荼羅(第一転)があったが、後世の兵乱で失われている。 そして現在、当麻寺では文亀3年(1503)に転写された貞享本曼荼羅(第三転)を合せて正系曼荼羅図と称している。
このような当麻曼荼羅の転写本の歴史を究明する上で、一つの手懸りとなるのが、下縁部の九品阿弥陀来迎の姿が立像であるか坐像であるかという点である。根本曼荼羅では下縁部が完全に欠失しており、鎌倉時代から室町時代の多くの転写本が下縁立像式であることから、安永3年(1774) 撰の「当麻曼荼羅捜源疎図本」で伊勢天然寺僧大順は、「古図は立像につくり新図は坐像につくる」としている。しかしながら、文亀本曼荼羅の制作に際し、建保本曼荼羅を参惜した記録が残ることなどから、根本曼荼羅の下縁部が坐像形式であった可能性が強いと思われている。そのような中で注目されるのが鎌倉時代の下縁坐像式の当麻曼荼羅である。同時代の当麻曼荼羅は全国で二十数点認められているが、下縁坐像式のものは京都知恩寺本、秋田浄橋寺本 (元京都透玄寺本)など数点に過ぎず、鎌倉時代の当麻曼荼羅転写の諸相を知る上で、竜泉寺本の確認は手懸りとなる。
同時代の当麻曼荼羅で制作年の明らかなものは、正安4年(1302)銘の軸木をもつ下縁立像式の京都禅林寺本が知られており、 その後、暦応2年(1339)の河内浄土院伝来本が知れる。 竜泉寺本は、削られた軸木表面の銘から、元応元年(1319)頃の制作と考えられ注目されていたが、平成3年の修理の中で、軸木内の銘文が見つかり、本図の制作にかかる経緯が明らかになった。 これによると、小野氏女が発願、 右衛門尉藤原為重が大願主となり、備後州鞆町沖御堂奥堂曼荼羅として、洛陽白川住大繪師法眼隆尊が元応元年(1319) 七月十五日に、讃州香西成就院で描かれたことがわかる。 ここに見える藤原為重と小野氏女は、延慶4年(1311)に施入された備前西大寺大般若波羅蜜多経第三百五十と第五百五十の奥書に見える「備後鞆右衛門尉平為重小野氏」と同じ人物と考えられる。法眼隆尊は他には見えない。
また、修理前の画幅の裏には、正徳5年(1715)に修理勧進した竜泉寺念仏講408名を記した修理記録が貼付されており、江戸時代はじめには、すでに同寺に伝わっていたことがわかっている。
このように本図は、当麻曼荼羅転写の研究や、浄土絵画の編年の基準作として重要な作品である。また、在地有力者や絵師を含め、鎌倉末期の地方における仏画制作のようすや、当地域の近世念仏講の規模を知るための貴重な資料といえる。
《旧軸木銘文》
大日本国備後州鞆町沖御堂奥堂曼荼羅也 大願主 右衛門尉藤原為重小野氏女発願之
大繪師 洛陽白川住法眼隆尊 元應元年歲次己未七月十五日 於讚州香西成就院圖繪之矣
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更新日:2026年07月21日