明け方の皆既月食(2025年9月8日)[解説]
今年度(2025年度:2025年04月~2026年03月)は2度の月食観察のチャンスがあり、その第1弾がいよいよ今月09月08日(月曜日)の未明に観察できます。
日本から観察できる月食としては、2023年10月29日の部分月食以来ほぼ2年ぶり。ただし、この時は日の出直前に西の空低くでわずかに欠けるだけ、と観察のハードルが非常に高かったことから、条件の良いものとしては2022年11月8日夕方の皆既月食以来約3年ぶりに観察できる月食となります。
今回の月食は未明の現象ということで、残念ながら少年自然の家の天体観測室では観望会の実施予定はありませんのでご了承ください。以下に当日の月食の詳細を解説を入れてますので、興味のある方はぜひご自宅で観察を楽しみましょう。
09月08日(月曜日)の皆既月食について
今回の月食では月が地球の影にすべて隠される「皆既月食」を観察することができます。(月食のしくみについては後述)
月食のタイミングによっては、欠け始めのタイミングに月がまだ地平線下にあってすでにいくらか欠けた状態で月が昇る「月出帯食(げつしゅつたいしょく)」や、反対に欠け終わりのタイミングの前に月が欠けたままの状態で月が沈む「月没帯食(げつぼつたいしょく)」となる場合がありますが、今回の皆既月食は前回2022年11月と同様、部分食の開始から全ての過程を見ることができます。
そして、これまた前回同様に月が地球の影の中心近くを通過するため、月がすべて隠れる皆既状態の時間が1時間22分もあり、通常の皆既月食と比べて比較的長いことも今回の特徴となっています。
加古川市立少年自然の家における、当日の月食のタイムスケジュールは次の通りです。加古川市内であれば、どこでもこの表とほぼ同じになります。
なお、今回の月食が起こるのは07日(日曜日)から08日(月曜日)にかけての夜、日付が変わってしばらくしてからのタイミングであり、08日(月曜日)の夕方以降暗くなってからの夜の現象ではありませんのでご注意ください。
時刻 | 食分 | 方位 | 方位角 | 高度 | |
---|---|---|---|---|---|
月南中 | (07日)23時52分すぎ | --- | 南 | 180度 | 47.6度 |
半影食開始 | (08日)00時28分すぎ | --- | 南南西 | 193度 | 47.0度 |
部分食開始 | 01時27分ごろ | 0.00 | 南南西 | 212度 | 42.7度 |
食分0.5 | 01時58分ごろ | 0.50 | 南西 | 221度 | 39.1度 |
皆既食開始 | 02時31分ごろ | 1.00 | 南西 | 229度 | 34.6度 |
食の最大 | 03時12分ごろ | 1.36 | 西南西 | 234度 | 28.1度 |
皆既食終了 | 03時53分ごろ | 1.00 | 西南西 | 246度 | 21.0度 |
(天文薄明開始) | 04時12分ごろ | 0.72 | 西南西 | 249度 | 17.6度 |
食分0.5 | 04時26分ごろ | 0.50 | 西南西 | 251度 | 15.0度 |
(航海薄明開始) | 04時43分ごろ | 0.23 | 西南西 | 254度 | 11.8度 |
部分食終了 | 04時56分すぎ | 0.00 | 西南西 | 256度 | 9.2度 |
(市民薄明開始) | 05時13分ごろ | --- | 西南西 | 258度 | 6.1度 |
下記の時刻以降、月は地平線より下にあって 観察することはできません。 |
|||||
月没 | 05時48分すぎ | --- | 西 | 263度 | -0.8度 |
半影食終了 | 05時55分ごろ | --- | 西 | 264度 | -2.1度 |
- 時刻はステラナビゲータVer.11より算出。地球の影の大きさの見積もり等の関係上、国立天文台や各種天文サイト等の発表と多少の誤差がみられる場合がありますが、肉眼での観察に大きく影響するものではありません。
- 食分とは、月をおおう地球の影(本影)の直径の割合を表しています。影におおわれた部分の面積の割合ではありませんのでご注意ください。
- 方位角は真北を0度とし、そこから時計回りに一周360度で表現しています。よって、真東・真南・真西の方位角はそれぞれ90度・180度・270度となります。
- 薄明とは、地平線より下にある太陽の光によって空の明るさに影響がある時間帯を指します。目安として、天文薄明の開始より前は太陽の光が空の明るさにほぼ影響しない時間帯であり、航海薄明の開始以降は外洋の船舶から水平線を判別でき、市民薄明の開始以降は外で本の字を読むことができる、と見なされています。

当日の月食の経過
月食のしくみについて
「月食」を一言で言うと、地球の影が月を隠す現象、です。
ふだん月は太陽の光を反射することで光って見えますが、太陽-地球-月の順にこれらの天体がほぼ一直線に並んだときには太陽の反対側へ伸びた地球の影の中を月が横切っていくことになり、影がさした部分には光がほとんど届かず月が欠けたように見える、というわけです。
月食の種類としくみ
月食が起こっているとき、月食の状態は月におちる影の種類によって「半影食」と「本影食」の2種類に分けることができ、さらに「本影食」は影の当たり方によって「部分月食」と「皆既月食」の2種類に分けられます。

月食が起きているときの3天体(太陽・地球・月)の位置関係。
[画像引用:国立天文台]
上の図のように地球の影には、太陽の光が一部届く半影と、太陽の光がほとんど届かない本影の2種類があります。
(もし影の中から地球や太陽の方向を眺めたとすると、半影の中から見た場合は地球の後ろから太陽の一部が顔をのぞかせて太陽の強い光が見えますが、本影の中からだと太陽は地球にすべてかくされています。)
月におちる影が半影のみの状態の月食を「半影月食」と呼びますが、こちらは月におちた影があまり目立たず、写真に撮影してようやく暗くなっていることが判別できる程度のため、一般的に注目されることはほとんどありません。
通常、ニュース等で取り扱われるような月食は一般的に「本影食」の状態の月食を指し、月の一部に本影がおちて月が欠けたように見える状態を「部分月食」、月が本影にすっぽりおさまって月全体にわたり太陽の光がほとんど届いてない状態を「皆既月食」と呼びます。

部分月食。2014年10月8日撮影。

皆既月食。2014年10月8日撮影。
ところで、皆既中の状態の月には先述のように太陽の光はほとんど届いていません。
しかし、実際に皆既中の状態の月を観察してみると、上の写真のようにうっすら赤味がかった「赤銅(しゃくどう)色」にあやしく光る様子を観察することができます。
実はこれ、暗く見える影の中に太陽の光の赤色の成分が入り込んでいるためです。

皆既状態の月が赤く見える理由。[画像引用:国立天文台]
上の図のように、地球本体にさえぎられることで本影の中には太陽の光のほとんどが届くことはありません。
しかし、地球には表面をおおう大気(空気)の層があり、この層を通過した太陽の光は大気によって大部分が散らされてしまいますが、その中で赤に近い成分の光はこの大気の層を通過して再び宇宙空間へと飛び出していきます。その際、地球の大気がレンズのような役割を果たすことで光の通り道が曲がり、本影の内側にこの赤い光が差し込むことになるのです。
この赤い光に照らされた月はほんのりと暗く赤黒い血の色の様に光って見えるため、皆既中の赤い月を「ブラッドムーン(Blood Moon)」と表現することもあります。
次回以降の月食
月食は年間を通して1~2回起こっていますが、これは日食が地球全体で年に2~3回起こっていることと比べると、数字の上ではやや少ないように思えるかもしれません。
ただし、世界的に見てごく限られた地域でしか観察できない日食に対して、月食はその時に月が見える地域であれば世界のどこからでも観察することができるため、現実的には日食よりも月食を目にする機会の方がはるかに多くなります。
今回を含め、この先2035年までの10年間に加古川市内から見ることができる月食を表にまとめてみました。
年月日 | 時間帯 | 最大食分 [皆既継続] |
最大食 | 備考 |
---|---|---|---|---|
2025年09月08日 | 未明~ 明方 |
1.36 [82分] |
皆既食 | 好条件。全過程を観察できる。 |
2026年03月03日 | 夕方~ 夜半前 |
1.15 [59分] |
皆既食 | 好条件。全過程を観察できる。 同日は桃の節句。 |
2028年07月07日 | 未明~ 明方 |
0.39 | 部分食 | 同日は七夕。 |
2029年01月01日 | 夜半~ 未明 |
1.25 [72分] |
皆既食 | 好条件。全過程を観察できる。 年明け直後に起こる元日月食。 |
2029年12月21日 | 早朝 | 1.12 [55分] |
皆既食 | 月没帯食。加古川では惜しくも、 皆既状態になる数分前に月没。 |
2030年06月16日 | 未明~ 明方 |
0.50 | 部分食 | 月没のギリギリ10分前に終了。 |
2032年04月26日 | 夜半 | 1.19 [66分] |
皆既食 | 好条件。全過程を観察できる。 |
2032年10月19日 | 未明~ 明方 |
1.10 [48分] |
皆既食 | 好条件。全過程を観察できる。 |
2033年04月15日 | 未明~ 明方 |
1.09 [51分] |
皆既食 | 皆既中、月の直径3個分という 至近距離に一等星のスピカ。 加古川では部分食が終了する 直前に月が沈む月没帯食。 |
2033年10月08日 | 夕方~ 夜半前 |
1.35 [80分] |
皆既食 | 好条件。全過程を観察できる。 皆既中、月から約3度の所に天王星。 |
- 「月出帯食」「月没帯食」はそれぞれ、月食の途中で月が昇る、沈むことを指します。
次に見ることができる月食は2026年03月03日、ちょうど桃の節句(ひなまつり)の夜に起こる皆既月食です。今回よりも皆既状態の時間は少し短めですが、夕方の現象ということで、未明に現象が起こる今回よりもかなり観察がしやすいことでしょう。少年自然の家でも特別観望会を実施する計画を立てておりますので、その際は是非ご参加ください!
以降、全過程を観察できる条件のいい皆既月食が他にもこの先約10年の間に数回あります。特に2032年と2033年にはその2年間というわずかな期間の間に、ほぼ全過程を観察できる条件のいい皆既月食を4回連続で観察できる珍しいチャンス!
この先しばらくは月食を楽しむ機会が続きそうです。
更新日:2025年09月04日