月の出から始まる皆既月食(2022年11月8日)[解説]

更新日:2022年10月30日

今年2022年は世界全体では2度の月食観察のチャンスがありましたが、その第1弾となる5月の皆既月食は日本から観察できないものでした。(主にアメリカやヨーロッパ)
日本から観察できる月食としては昨年11月の部分月食以来ちょうど1年ぶり、皆既月食に限ると昨年5月の皆既月食以来約1年半ぶりとなります。が、昨年5月の皆既月食は残念ながら天候に恵まれなかったことから、加古川で夕方に観察できた皆既月食は2018年1月にまでさかのぼるため、実質5年ぶりに観察できる皆既月食となります。

当日は少年自然の家の天体観測室にて特別観望会も予定しています。月食中の月を大型望遠鏡を使って観察することができますので、興味のある方はぜひご参加ください。
(電話による事前申込が必要です。詳細は以下のページをご確認ください。)

11月08日(火曜日)の皆既月食について

今回の月食では月が地球の影にすべて隠される「皆既月食」を観察することができます。(月食のしくみについては後述)
昨年の月食は5月の皆既月食と11月の部分月食のいずれも、欠け始めのタイミングではまだ月が地平線下にあり、すでにいくらか欠けた状態で月が昇る「月出帯食(げつしゅつたいしょく)」でしたが、今回は部分月食の開始から全ての過程を見ることができます。全過程を観察できるのも、2018年の皆既月食以来、約5年ぶりとなります。
また、今回は月が地球の影の中心近くを通過するため、月がすべて隠れる皆既状態の時間が1時間25分もあり、通常の皆既月食と比べて比較的長いことも今回の特徴となっています。

加古川市立少年自然の家における、当日の月食のタイムスケジュールは次の通りです。加古川市内であれば、どこでもこの表とほぼ同じになります。

  時刻 食分 方位 方位角 高度
月出 16時02分58秒 --- 東北東 70度 -0.2度
半影食開始
(ほぼ同時に日没)
17時02分15秒 --- 東北東 72度 1.4度
(市民薄明終了) 17時27分18秒 --- 東北東 75度 6.1度
(航海薄明終了) 17時57分25秒 --- 東北東 79度 11.9度
部分食開始 18時09分12秒 0.00 80度 14.2度
(天文薄明終了) 18時27分05秒 0.28 82度 17.8度
食分0.5 18時41分48秒 0.50 84度 20.7度
皆既食開始 19時16分39秒 1.00 89度 27.7度
食の最大 19時59分08秒 1.36 95度 36.3度
皆既食終了 20時41分37秒 1.00 東南東 101度 44.8度
食分0.5 21時16分27秒 0.50 東南東 108度 51.7度
部分食終了 21時49分03秒 0.00 東南東 116度 57.8度
半影食終了 22時56分09秒 --- 南東 142度 68.6度
月南中 23時51分22秒 --- 180度 72.5度
  • 時刻はステラナビゲータVer.9より算出。地球の影の大きさの見積もり等の関係から国立天文台等の発表とは多少の誤差がありますが、肉眼での観察に大きく影響するものではありません。
  • 食分とは、月をおおう地球の影(本影)の直径の割合を表しています。影におおわれた部分の面積ではありませんのでご注意ください。
  • 方位角は真北を0度とし、そこから時計回りに一周360度で表現しています。よって、真東・真南・真西の方位角はそれぞれ90度・180度・270度となります。
  • 薄明とは、地平線より下にある太陽の光によって空の明るさに影響がある時間帯を指します。目安として、市民薄明の終了までは外で本の字を読むことができ、航海薄明の終了までは外洋の船舶から水平線を判別することができる、とされており、天文薄明の終了以降は太陽の光が空の明るさにほぼ影響しなくなると見なされています。
皆既月食の経過

当日の月食の経過

月食のしくみについて

「月食」を一言で言うと、地球の影が月を隠す現象、です。
ふだん月は太陽の光を反射することで光って見えますが、太陽-地球-月の順にこれらの天体がほぼ一直線に並んだときには太陽の反対側へ伸びた地球の影の中を月が横切っていくことになり、影がさした部分には光がほとんど届かず月が欠けたように見える、というわけです。

月食の種類としくみ

月食は、月におちる影の種類によって「半影月食」と『本影月食(注)』の2種類に分けることができ、さらに『本影月食』は影の当たり方によって「部分月食」と「皆既月食」の2種類に分けられます。

月食のしくみ

月食が起きているときの3天体(太陽・地球・月)の位置関係。
[画像引用:国立天文台]

上の図のように地球の影には、太陽の光が一部届く半影と、太陽の光がほとんど届かない本影の2種類があります。
(もし影の中から地球や太陽の方向を眺めたとすると、半影の中から見た場合は地球の後ろから太陽の一部が顔をのぞかせて太陽の強い光が見えますが、本影の中からだと太陽は地球にすべてかくされています。)

月におちる影が半影のみの状態の月食を「半影月食」と呼びますが、こちらは月におちた影があまり目立たず、写真に撮影してようやく暗くなっていることが判別できる程度のため、一般的に注目されることはほとんどありません。

通常、ニュース等で取り扱われるような月食は一般的に『本影月食』の方を指し、月の一部に本影がおちて月が欠けたように見える状態を「部分月食」、月が本影にすっぽりおさまって月全体にわたり太陽の光がほとんど届いてない状態を「皆既月食」と呼びます。

(注)
なお、上記文中では月食の性質の違いを表すために『本影月食』という表現を使用していますが、この『本影月食』という呼び方はあまり一般的には使用されません。一方、「半影月食」については「部分月食」「皆既月食」の前後に起こっている現象としてニュース等でも紹介されることがあります。

部分月食

部分月食。2014年10月8日撮影。

皆既月食

皆既月食。2014年10月8日撮影。

ところで、皆既中の状態の月には先述のように太陽の光はほとんど届いていません。
しかし、実際に皆既中の状態の月を観察してみると、上の写真のようにうっすら赤味がかった「赤銅(しゃくどう)色」にあやしく光る様子を観察することができます。
実はこれ、暗く見える影の中に太陽の光の赤色の成分が入り込んでいるためです。

皆既月食が赤く見える理由

皆既状態の月が赤く見える理由。[画像引用:国立天文台]

上の図のように、地球本体にさえぎられることで本影の中には太陽の光のほとんどが届くことはありません。

しかし、地球には表面をおおう大気(空気)の層があり、この層を通過した太陽の光は大気によって大部分が散らされてしまいますが、その中で赤に近い成分の光はこの大気の層を通過して再び宇宙空間へと飛び出していきます。その際、地球の大気がレンズのような役割を果たすことで光の通り道が曲がり、本影の内側にこの赤い光が差し込むことになるのです。

この赤い光に照らされた月はほんのりと暗く赤黒い血の色の様に光って見えるため、皆既中の赤い月を「ブラッドムーン(Blood Moon)」と表現することもあります。

月食と同時に起こる「天王星食」

今回の皆既月食、実は「天王星食」という食現象が月食の真っ最中に起こります。

天王星食とは、惑星である天王星が月の後ろに隠されて見えなくなる現象です。
(天王星食の様に、惑星が月の後ろに隠される現象をまとめて「惑星食」といいます。)
天王星自体は人間の眼でギリギリ見える程度の明るさしかない(5.6等)のため、観察には双眼鏡や望遠鏡が必要となりますが、2つの食現象が同時に起こる機会はめったにないため、機材をお持ちの方は観察に挑戦してみてはいかがでしょうか。

どこで観察しても同じタイミングで同じように進行する月食とは異なり、惑星食は観察する場所によって、惑星が月に隠されるタイミングや、惑星が月のどのあたりで隠されるかが変わってきます。今回の天王星食を観察する場合は事前に時刻をしっかりと確認しておきましょう。例として少年自然の家で観察する場合を紹介します。(加古川市内であればほぼ同じタイミングで進行するものと思われます。)

まず、天王星が月に隠される時刻は20時30分ごろ。約10秒程度の時間をかけて天王星が皆既中の月に隠されていきます。
その後、天王星が月の後ろから出てくるのは21時21分ごろ。隠される時と同じく約10秒程度かけて顔を出してきますが、この時の月はすでに皆既状態が終わって形も半分以上回復しているために明るいことから、影の部分から出てくる天王星を見つけるのはやや難しいかもしれません。下の図をよく見て、どのあたりから天王星が出てくるか狙いを定めて待ち構えてみましょう。

(なお、惑星食では惑星が月に隠されることを「潜入」、惑星が月の後ろから出てくることを「出現」といいます。)

天王星食の潜入(20時30分)

天王星食の潜入(20時30分)@加古川市
画像中央の星が天王星。

天王星食の出現(21時21分)

天王星食の出現(21時21分)@加古川市
左と同じく、画像中央が天王星。

ちなみに、天王星食という現象自体は観察できる機会は10~30年に一度程度。他の惑星の惑星食も観察できる機会はそれぞれ5~50年に一度という頻度でしか起こらないことから、惑星食はかなり珍しい現象と言えます。
しかも今回はさらに、月食と天王星食という2つの食現象が同時に起こる「ダブル食」になるということで、そんな珍しさのレベルが桁違いに跳ね上がっています!

月食中の惑星食(1500年~2400年)[出典:HAL星研(一部を抜粋)]
惑星食 年月日 最大食 日本での状況
土星食 1580年07月26日 皆既食 ほぼ全国で皆既中に潜入
天王星食 1930年10月08日 部分食 南西諸島で部分食中
(天王星食) 2014年10月08日 皆既食 (稚内で部分食中に接食)
天王星食 2022年11月08日 皆既食 関東以西で皆既食中に潜入など
土星食 2344年07月26日 皆既食 関東以西で部分~皆既食中

上の表は、西暦1500年から2400年までの900年の間、日本で観察できた(できる)月食中の惑星食(以下、ダブル食)の一覧です。ただし、2014年の天王星食の欄については、「接食」といって天王星が月の端をギリギリかすめていく状態が稚内で観察されたのみであるため、日本国内で天王星が完全に隠される天王星食が観察できたわけではありません。(珍しさで言うとある意味こちらの方が珍しいといえるかもしれませんが))

よって、日本でダブル食を観察できるのは1930年の天王星食以来92年ぶりの現象となるわけですが、これは南西諸島で観察できただけで加古川では見られないものでした。そのため、加古川で観察できたダブル食は1580年の土星食、実に440年以上も昔にまでさかのぼることになります!
なお、次に加古川でダブル食を拝むことができる機会は、これまた遥か未来となる322年も先、2344年の土星食まで待つことになります。

これほどまでに貴重な機会となる今回のダブル食。本音を言えば少年自然の家で実施する特別観望会でも多くの方に体験していただきたいところではありますが、残念な点が一つあり、潜入と出現それぞれ10秒程度しかない現象であるということ。多くの方にタイミングを狙って観察していただくにはあまりにも短い時間です。

そのため、今回の特別観望会では天王星食の瞬間の観察については積極的にはご案内していません。その代わり、当日は動画でこの天王星食の潜入と出現の瞬間を撮影することを予定しています。特別観望会終了後、数日の内に編集して公開を予定していますので、ぜひその貴重な瞬間を動画でじっくりお楽しみください。

次回以降の月食

月食は年間を通して1~2回起こっていますが、これは日食が地球全体で年に2~3回起こっていることと比べると、数字の上ではやや少ないように思えるかもしれません。
ただし、世界的に見てごく限られた地域でしか観察できない日食に対して、月食はその時に月が見える地域であれば世界のどこからでも観察することができるため、現実的には日食よりも月食を目にする機会の方がはるかに多くなります。

この先2033年までの11年間に加古川市内から見ることができる月食を表にまとめてみました。

年月日 時間帯 最大食分
[皆既継続]
最大食 備考
2023年10月29日 明方 0.12 部分食 わずかに欠けるのみ。
2025年09月08日 未明~
明方
1.36
[82分]
皆既食 好条件。全過程を観察できる。
2026年03月03日 夕方~
夜半前
1.15
[59分]
皆既食 好条件。全過程を観察できる。
同日は桃の節句。
2028年07月07日 未明~
明方
0.39 部分食 同日は七夕。
2029年01月01日 夜半~
未明
1.25
[72分]
皆既食 好条件。全過程を観察できる。
年明け直後に起こる元日月食。
2029年12月21日 早朝 1.12
[55分]
皆既食 月没帯食。加古川では惜しくも、
皆既状態になる数分前に月没。
2030年06月16日 未明~
明方
0.50 部分食 月没のギリギリ10分前に終了。
2032年04月26日 夜半 1.19
[66分]
皆既食 好条件。全過程を観察できる。
2032年10月19日 未明~
明方
1.10
[48分]
皆既食 好条件。全過程を観察できる。
2033年04月15日 未明~
明方
1.09
[51分]
皆既食 皆既中、月の直径3個分という
至近距離に一等星のスピカ。
加古川では部分食が終了する
直前に月が沈む月没帯食。
2033年10月08日 夕方~
夜半前
1.35
[80分]
皆既食 好条件。全過程を観察できる。
皆既中、月から約3度の所に天王星。
  • 「月出帯食」「月没帯食」はそれぞれ、月食の途中で月が昇る、沈むことを指します。

次に見ることができる月食は来年の10月に起こる部分月食ですが、月が沈む前の西の低空で、月の端がわずかに欠ける程度となります。よって、好条件の月食は3年程度待つことになりますが、その次の2025年の皆既月食は明け方ながら今回と同じような規模の月食として観察することができます。

以降、全過程を観察できる条件のいい皆既月食が他にもこの先約10年の間に数回り、特に2032年と2033年にはほぼ全過程を観察できる条件のいい皆既月食を、その2年間というわずかな期間に4回連続で観察できる珍しいチャンスが訪れるなど、しばらくは月食を楽しむ機会が続きそうです。

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