“皆既”じゃない??? 11月19日は部分月食[解説]
今年2021年は2度の月食観察のチャンスがあり、その第1弾として5月26日(水曜日)夕方には皆既月食がありました。ただ、残念なことに当日はあいにくの天候のため、観察することはできずに終わってしまいました。
前回は残念な結果となりましたが、今年の月食第2弾として11月19日(金曜日)に、今度は非常に深い部分月食を観察することができます。
天文現象の中でも月食は特に観察しやすく見応えもありますので、天気が良ければぜひ観察してみてください。
また、当日は少年自然の家の天体観測室にて特別観望会も予定しています。月食中の月を大型望遠鏡を使って観察することができますので、興味のある方はぜひご参加ください。
(電話による事前申込が必要です。詳細は以下のリンクをご確認ください。)
11月19日(金曜日)の部分月食について
今回の月食では月の一部が地球の影に隠される「部分月食」を観察することができます(月食のしくみについては後述)が、今回はかけ始めのタイミングではまだ月が地平線下にあるため、すでに半分ほど欠けた状態で月が昇ってきます。
また、今回は月が地球の影の中に大きく入り込み、月がすべて隠される一歩手前まで到達することから、限りなく“皆既”(月が地球の影にすべて隠れた状態)に近い部分月食であることが今回の特徴となっています。
加古川市立少年自然の家における、当日の月食のタイムスケジュールは次の通りです。加古川市内であれば、どこでもこの表とほぼ同じになります。
時刻 | 食分 | 高度 | 方位 | 方位角 | |
---|---|---|---|---|---|
半影食開始 | 15時02分08秒 | --- | -19.2度 | 北東 | 50度 |
部分食開始 | 16時18分41秒 | 0.00 | -6.5度 | 東北東 | 62度 |
この時点まで月は地平線下にあり、 観察することはできません。 |
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月出 | 16時49分40秒 | 0.41 | -0.2度 | 東北東 | 67度 |
(日没) | 16時54分36秒 | 0.47 | 0.6度 | 東北東 | 67度 |
食分0.5 | 16時57分00秒 | 0.50 | 1.0度 | 東北東 | 68度 |
(市民薄明終了) | 17時20分24秒 | 0.75 | 5.1度 | 東北東 | 71度 |
高度10度突破 | 17時46分14秒 | 0.94 | 10.0度 | 東北東 | 74度 |
(航海薄明終了) | 17時51分04秒 | 0.95 | 10.9度 | 東北東 | 75度 |
食の最大 | 18時02分52秒 | 0.97 | 13.2度 | 東北東 | 76度 |
少年自然の家の天体観測室ではこの時点まで月が 相ノ山の向こうにあり、観察することができません。 |
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月出(少年自然の家) | 18時10分50秒 | 0.97 | 14.8度 | 東北島 | 77度 |
(天文薄明終了) | 18時21分08秒 | 0.93 | 16.8度 | 東北東 | 78度 |
高度20度突破 | 18時37分25秒 | 0.65 | 20.0度 | 東 | 80度 |
食分0.5 | 19時08分45秒 | 0.50 | 26.3度 | 東 | 84度 |
高度30度突破 | 19時27分25秒 | 0.26 | 30.0度 | 東 | 87度 |
部分食終了 | 19時47分04秒 | 0.00 | 40.0度 | 東 | 89度 |
半影食終了 | 21時03分40秒 | --- | 49.4度 | 東 | 101度 |
- 時刻はステラナビゲータVer.9より算出。地球の影の大きさの見積もり等の関係から国立天文台等の発表とは多少の誤差がありますが、肉眼での観察に大きく影響するものではありません。
- 食分とは、月をおおう地球の影(本影)の直径の割合であり、食分が1に近づくほど月がすべて影におおわれた“皆既”状態に近くなることを表しています。
影におおわれた部分の面積とは異なりますのでご注意ください。 - 方位角は真北を0度とし、そこから時計回りに一周360度で表現しています。よって、真東・真南・真西の方位角はそれぞれ90度・180度・270度となります。
- 薄明とは、地平線より下にある太陽の光によって空の明るさに影響がある時間帯を指します。目安として、市民薄明の終了までは外で本の字を読むことができ、航海薄明の終了までは外洋の船舶から水平線を判別することができる、とされており、天文薄明の終了以降は太陽の光が空の明るさにほぼ影響しなくなると見なされています。

月食のしくみについて
「月食」を一言で言うと、地球の影が月を隠す現象、です。
ふだん月は太陽の光を反射することで光って見えますが、太陽-地球-月の順にこれらの天体がほぼ一直線に並んだときには太陽の反対側へ伸びた地球の影の中を月が横切っていくことになり、影がさした部分には光がほとんど届かず月が欠けたように見える、というわけです。
月食の種類としくみ
月食は、月におちる影の種類によって「半影食」と『本影食』の2種類に分けることができ、さらに『本影食』は影の当たり方によって「部分月食」と「皆既月食」の2種類に分けられます。

月食が起きているときの3天体(太陽・地球・月)の位置関係。
[画像引用:国立天文台]
上の図のように地球の影には、太陽の光が一部届く半影と、太陽の光がほとんど届かない本影の2種類があります。
(もし影の中から地球や太陽の方向を眺めたとすると、半影の中から見た場合は地球の後ろから太陽の一部が顔をのぞかせて太陽の強い光が見えますが、本影の中からだと太陽は地球にすべてかくされています。)
月におちる影が半影のみの状態の月食を「半影食」と呼びますが、こちらは月におちた影があまり目立たず、写真に撮影してようやく暗くなっていることが判別できる程度のため、一般的に注目されることはほとんどありません。
通常、ニュース等で取り扱われるような月食は一般的に『本影食』の方を指し、月の一部に本影がおちて月が欠けたように見える状態を「部分月食」、月が本影にすっぽりおさまって月全体にわたり太陽の光がほとんど届いてない状態を「皆既月食」と呼びます。
(なお、今回は月食の性質の違いを表すために『本影食』という表現を使用していますが、この『本影食』という呼び方はあまり一般的には使用されません。一方、「半影食」については「部分月食」「皆既月食」の前後に起こっている現象としてニュース等でも紹介されることがまれにあります。)

部分月食。2014年10月8日撮影。

皆既月食。2014年10月8日撮影。
ところで、皆既中の状態の月には先述のように太陽の光はほとんど届いていません。
しかし、実際に皆既中の状態の月を観察してみると、上の写真のようにうっすら赤味がかった「赤銅(しゃくどう)色」にあやしく光る様子を観察することができます。
実はこれ、暗く見える影の中に太陽の光の赤色の成分が入り込んでいるからなのです。

皆既状態の月が赤く見える理由。
[画像引用:国立天文台]
上の図のように、地球本体にさえぎられることで本影の中には太陽の光のほとんどが届くことはありません。
しかし、地球には表面をおおう大気(空気)の層があり、この層を通過した太陽の光は大気によって大部分が散らされてしまいますが、その中で赤に近い成分の光はこの大気の層を通過して再び宇宙空間へと飛び出していきます。その際、地球の大気がレンズのような役割を果たすことで光の通り道が曲がり、本影の内側にこの赤い光が差し込むことになるのです。
この赤い光に照らされた月はほんのりと暗く赤黒い血の色の様に光って見えるため、皆既中の赤い月を「ブラッドムーン(Blood Moon)」と表現することもあります。
今回の月食では完全な皆既とはならないものの、下の図のように月が本影のかなり深く、というよりほとんど本影の中に入ってしまうことから、食の最大の前後では月の欠けている部分が赤く見える可能性が考えられるため、部分月食でも今回は月が赤く見えるか注目です!

次回以降の月食
月食は年間を通して1~2回起こっていますが、これは日食が地球全体で年に2~3回起こっていることと比べると、数字の上ではやや少ないように思えるかもしれません。
ただし、世界的に見てごく限られた地域でしか観察できない日食に対して、月食はその時に月が見える地域であれば世界のどこからでも観察することができるため、現実的には日食よりも月食を目にする機会の方がはるかに多くなります。
この先2031年までの10年間に加古川市内から見ることができる月食を表にまとめてみました。
年月日 | 時間帯 | 最大食分 [皆既継続] |
最大食 | 備考 |
---|---|---|---|---|
2022年11月08日 | 夕方~ 夜半前 |
1.36 [86分] |
皆既食 | 月出帯食。好条件。 皆既中に「天王星食」も起こる。 |
2023年10月29日 | 明方 | 0.12 | 部分食 | わずかに欠けるのみ。 |
2025年09月08日 | 未明~ 明方 |
1.36 [82分] |
皆既食 | 好条件。全過程を観察できる。 |
2026年03月03日 | 夕方~ 夜半前 |
1.15 [59分] |
皆既食 | 好条件。全過程を観察できる。 同日は桃の節句。 |
2028年07月07日 | 未明~ 明方 |
0.39 | 部分食 | 同日は七夕。 |
2029年01月01日 | 夜半~ 未明 |
1.25 [72分] |
皆既食 | 好条件。全過程を観察できる。 年明け直後に起こる元日月食。 |
2029年12月21日 | 早朝 | 1.12 [55分] |
皆既食 | 月没帯食。加古川では惜しくも、 皆既状態になる数分前に月没。 |
2030年06月16日 | 未明~ 明方 |
0.50 | 部分食 | 月没のギリギリ10分前に終了。 |
- 「月出帯食」「月没帯食」はそれぞれ、月食の途中で月が昇る、沈むことを指します。
今回の11月の月食の次に見ることができるのは、来年2022年の11月に起こる皆既月食です。この月食は月出帯食のため全過程を観察することができないものの非常に条件が良く、皆既状態も86分とかなりの長時間にわたって継続します。また、惑星である天王星を月が隠す「天王星食」という現象が皆既中に重なって起こるという、非常に珍しい“ダブル食”として注目したいところです!
以降、全過程を観察できる条件のいい皆既月食がこの先10年の間に数回あるほか、表には含めていませんが2032年と2033年には、ほぼ全過程を観察できる条件のいい皆既月食を、この2年間というわずかな期間に4回連続で観察できる珍しいチャンスが訪れるなど、しばらくは月食を楽しむ機会が続きそうです。
更新日:2023年04月22日